細胞骨格をRhoファミリーG蛋白が制御していることを知られている。特に、Rac1およびCdc42は、細胞運動や細胞増殖刺激時に、葉状突起や糸状突起を誘導するのに重要な役割を担っている。本研究では、Rac1およびCdc42の下流因子として、これらのG蛋白に結合し、MAPKカスケードおよび細胞骨格制御に重要な役割を果たすセリンスレオニンキナーゼPak1を生細胞内で生きたまま観察することを目標として、分子モニターの作成を試みた。共同研究者のParriniらはPak1が2量体を形成しており、刺激依存性に単量体となることが活性化の基礎的なメカニズムであることを見出した。この知見に基づき、Pak1に黄色蛍光蛋白YFPならびに青色蛍光蛋白CFPを結合し、Pak1が不活性化型の2量体の時にのみ蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が起きる系を作成した。また、1分子モニターとするために、Pak1の両側にYFPとCFPとを結合したものを作成し、このプローブが刺激依存性にFRET効率の変化を示すか否かを調べた。YFPとCFPとを別々に発現させた2分子FRETの系でも、一つの分子に発現させた1分子FRETの系でも、基底状態でのFRETは観察できたが、上皮細胞増殖因子依存性のFRET効率の変化は観察できなかった。この原因は不明であるが、おそらく、Pak1のうちのFRET効率の変化を示すものの割合が低いことがその原因と考えられる。今後、プローブの感度を上げるとともに、Pak1の活性化を効率よく起こす系の作成等が必要である。
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