研究概要 |
組織へのエントリー・マネジメントの当事者(企業の人事部)にとっても、その対象(これから会社に入る学生)にとっても、最大のパラドクスは、リアリズムに徹することの難しさにある。これから入る世界の真の特徴は、学生にとって入ってみないとわからない。しかし、人事部は、彼らが入ってくる前に、会社の特徴について情報を与えなければならない。その情報はかなりの程度操作可能である。会社の良いイメージを中心に情報の内容を構成すると、より多くの候補者を引きつけるが、リアリズムに依拠していないと、入社後の「リアリティ・ショック」が大きい。逆に、当該の会社で仕事をする際のつらさなどのネガティブな面も含め、リアルに会社のあり方を提示すると、より厳選(自己選択)した、したがってより適合性の高い候補者にしぼってひとを引きつけることにはなるが、潜在的候補者の母集団を小さくしてしまう。この問題は、米国の産業心理学ではRJP(realistic job preview)問題として知られているが、わが国では未開拓のテーマである。 RJPをめぐる意味世界を探るために、学生と企業の人事部担当者に対して、フォーカス・グループ・インタビューを通じて、定性的データが収集された。学生からは、就職活動を通じて(1)最後まで迷った会社(産業)との比較,(2)最も有益/有害だった情報源,(3)会社について事前にイメージしていたことと大きく懸け離れていたこと,(4)その会社でやりたいことなどの、項目について事前に記述してきたものをもとに、GFAを実施した。また、人事担当者には、(1)RJPについてのこれまでの研究についての説明,(2)RJPについての質疑応答,(3)RJPのイメージが固まった後、その実施可能性・限界についての自由討議をしたRJPは、有効であるかもしれないが、日本の産業社会では(1)中途採用者,(2)社内公募により有効であると、示唆された。RJPについての質問票調査や電話インタビューを今後おこなう。
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