湖の富栄養化は大きな環境問題であるが、そのバックグランドといえる天然状態での湖の栄養状態(酸化還元状態や生物生産性)と気候変動との関係については研究が皆無である。本研究では構造湖で堆積盆の沈降により数十万年以上も現在と同様な水深を保ち続けていた琵琶湖やバイカル湖のボーリングコア試料をもちいて第四紀の氷河期間氷期の繰り返しと湖の栄養状態にどのような因果関係があるか調べることが目的である。当初は過去の琵琶湖の栄養状態の変化は堆積物の水酸化物相中の鉄マンガン比を測定することで推定できると考えていた。琵琶湖の1400mボーリングコアの最上部の120mの80試料について、還元剤で酸化物相中を抽出した後ICP発光分析法で、試料中の水酸化物相中の鉄マンガン比の値をだし、これまでの研究データと比較した。氷期が降水量の少ない時期に、現在のような間氷期が降水量の多い時期に対応すると考えられる。各種分析データの文献値から、降水量の多い時期は約25mから表層面まで、約65-95m、約130-145mであり、鉄マンガン比の値の値にそれに対応した変化があればと期待したが、値は約10-30とかなり変動するが、あまり対応関係はみられない。鉄やマンガンと似た挙動のヒ素についても放射化分析で分析してこの3元素から栄養状態の変化に対応する地球化学的指標を考察するよう現在分析中である。過去の富栄養化状態のもう一つの指標である珪藻の数の分析については、0-20mと60-80mにやや総数の多い時期があり、降水量の多い時期にやや対応しているが、明確な関係ではない。また珪藻の総数は局所的な栄養状態や水の流れが関係してくるので、地球化学的指標との相関も必ずしもよくはないと推察される。バイカル湖中南部100mコアについては現在バルクの化学分析のみであり、細かい間隔での分析は日米露の共同研究のため手筈が整わず、まだ試料の入手がすんでおらず実現していない。
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