本研究の目的は、超並列計算機プログラミングのための新しい計算モデルとして、発現的計算の概念を構築し、さらに本モデルの可能性をラムダ式の協調的並列リダクションへの工学的応用を通じて検証することである。 1.発現的計算モデルの基本概念の定式化 自己組織化の高い能力と環境への適応性の観点から発現的計算の定義を与えた。また並列分散遺伝的アルゴリズムのアイデアを発現的計算モデルの中心観念として採用した。 2.発現的計算モデルの対話型シミュレータの構築 発現的計算モデルの振舞いを観察する基本ツールとして、対話型ビジュアルシミュレータを構築した。本シミュレータは、(1)エージェントエディタ、(2)パターンインタープリタの2つのサブシステムから構成される。 本シミュレータを用いて、(1)分散システムにおける動的負荷均衡、および、(2)適応型ネットワークルーティングの評価を行ない、自己組織化現象の確認すると共に、発現的計算モデルの工学的意味での有効性を検証した。 3.発現的計算モデルによる並列リダクションシステムの構築 超並列計算モデルとしての可能性を示すために、ラムダ式の協調的並列リダクションを上記シミュレータに実現する。まず、エージェントエディタを用いて、リダクションの最小限の規則を各エージェントに与える。一方、リダクションすべきラムダ式は、個々のエージェントが節に対応した構文木の形式で内部表現される。すなわち、ラムダ式そのものが能動的なデータ構造を有し、自身の計算主体となる。その後、エージェント間の協調動作によりリダクションの正規化戦略を発現させる。本リダクションシステムは現在構築中である。
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