研究概要 |
分子間の電荷移動およびその光励起状態を用いると、2次の分子超分極率(β)を極めて大きくできる可能性があることが指摘されている。これは基底状態と励起状態が例えば錯体の中性状態とイオン性状態に対応するため、両者の双極子モーメントの差が大きくできる為である。本研究では、高い非線形感受率が期待できるドナー・アクセプターの系をLB法を用いて配列制御し、分子間の電荷移動励起状態を利用した非線形光学材料の構築を試みた。 分子間電荷移動を利用する場合、βは電荷移動量(ρ)によって左右される。適当な電荷移動量を得るためにはドナーおよびアクセプターが適当なイオン化ポテンシャル(l_P)および電子親和力(E_A)を持っている必要がある。さらにLB膜化を行うために長鎖アルキル基等の疎水基が必要である。本年度はこの様な条件を満たす分子として4種(C_<17>C_<18>DMTTF,C_<18>DCNQI,C_<18>Q,C_18HQ)を合成した。得られた分子およびこれまでに合成したCnTCNQを用いてLB膜の作製を行った。膜の品質の向上のために、アラキン酸カドミウムをマトリックス分子として使用した。いずれの場合も比較的均質な膜を得ることができた。次に、ドナー・アクセプターを同一のLB膜内に導入し、電荷移動を起こさせる必要があるが、本年度はまずC_<18>HQとC_<18>Qの組み合わせについて検討を行った。キノン(Q)とハイドロキノン(HQ)からなる錯体はキンヒドロンと呼ばれ古くから知られている。しかしながら、この錯体においては電荷移動のみならずHQからQへのプロトン移動も起こり得ることから、近年特異な物性を発現する可能性のあるものとして注目されている。HQからQへの電荷移動は比較的少量であり、比較的大きなβが期待される。アラキン酸カドミウムと1:1に混合した膜について吸収スペクトルを測定した結果、C_<18>HQとC_<18>Qを混合し同一層内に存在させた場合には比較的大きな電荷移動吸収帯が600nm付近に現れた。一方、C_<18>HQとC_<18>Qを交互に累積したヘテロ膜においては電荷移動吸収帯はかなり弱いものの観測可能であり、極性構造を持つLB膜においても分子間電荷移動が生じていることが示唆された。現在これらの膜の特性を電場変調分光を用いて検討中である。
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