昨年度の比較検討によって抽出された5地域すなわち、茨城県北部・同県中部・千葉県北東部・埼玉県北東部・群馬県にみられる人物埴輪製作技法の特徴をみると、茨城県北部では木芯中空成形があげられる。同県中部では全身像における分離成形があり、千葉県北東部では円錐形粘土棒による腕・美豆良成形が上げられる。また、埼玉県北東部では木芯中空成形と上着裾突帯表現の盛行があげられる。群馬県では東西両地域の詳細な技法上の差異は抽出できないが、写実的な全身像製作が特徴のひとつとしてあげられる。他地域をみると、神奈川県内にも木芯中空成形や写実的な全身像が存在し、栃木県内にも写実的な全身像や分離成形もみられる。このほかいくつかの特徴を比較し、その出現時期を考え合わせると、茨城県北部や神奈川県内でみられる木芯中空成形は埼玉県北東部で出現しており、この技法が両地域に伝播あるいは直接供給されたことがわかる。また、茨城県・千葉県・神奈川県では6世紀中葉頃を界に埼玉県北東部より群馬県内からの影響が強くみられるようになってくる。また、千葉県・栃木県では群馬県・茨城県からの影響も看守され、時期や地域によって複雑に技法の伝播あるいは直接供給がなされたことがわかる。しかし、おおきな流れとしては、6世紀前半代は北関東は群馬系、南関東は埼玉北東部が拠点となっており、その後急速に群馬系の埴輪が南関東にまで影響を及ぼすようになってくるのである。この影響は埼玉県北東部にまで浸透してくることから、6世紀後半代の関東地方は埼玉県北東部を凌駕した群馬系の人物埴輪が広く製作されるようになってゆくものと考えられる。このことは、6世紀後半代の関東地方では、群馬の勢力が広く浸透したことをものがたるものと思われる。
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