研究概要 |
1. DHA結合型リン脂質の分化誘導促進効果:(1)シロサケ筋肉,精巣及びマイカ肝膵臓から抽出した水産リン脂質が,ヒト白血病(HL-60)細胞に対するレチノイン酸やジブチリルcAMPなどの分化誘導剤の作用を増強する効果,すなわち分化誘導促進能を有することが明らかとなった。(2)マウス白血病(M1)細胞に対しては,DHA結合型リン脂質単独においても分化誘導能が認められた。(3)分化誘導促進効果は,DHAの遊離脂肪酸形態に比べリン脂質形態,特にPE形態において顕著なものであったことから,機能発現にはリン脂質形態が重要であると推察された。 2. 細胞膜への影響:TNBSクエンチング法並びに脂肪酸組成分析におけるDHA含有率の上昇から,DHA結合型リン脂質がHL-60細胞内に取り込まれていることを確認した。 3. 機能遺伝子発現への影響:DHA結合型PEは,レチノイン酸の分化誘導過程において重要な役割を果たすレチノイドXレセプタ-α(RXRα)のmRNA量を増加させることが示唆された。 4. 細胞内情報伝達酵素への影響:DHA結合型リン脂質の分化誘導促進作用がプロテインキナーゼ阻害剤により抑制されたことから,分化誘導促進能はプロテインキナーゼを介した作用であることが示唆された。 以上の結果から,水産リン脂質を含めたDHA結合型リン脂質が白血病細胞に対して分化誘導能及び分化誘導促進能を有することが明らかとなった。機能発現にはリン脂質の構造が重要であり,細胞に取り込まれた後,細胞内情報伝達酵素や核レセプターの発現を介して分化誘導剤の作用を促進することが推察された。
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