研究概要 |
前年度に引き続き,民族問題をめぐる政治的対立を規定する要因のひとつとして,各国の政党システムに着目し,特にバルト諸国を中心とした中東欧諸国の新興民主主義諸国を分析対象とした。昨年に引き続き(1)政権政党による少数民族表の取り込み、の研究を国籍取得要件の操作に焦点を当てて遂行するとともに、(2)民族アイデンティティが政党システムや選挙によって高揚する側面の研究、の2点を遂行した。 (1)については、初年度から継続的に実施していた研究であり、前年度の段階で国際シンポジウムの報告まで実施していた。本年度はその原稿に全面的な改定を加え、国籍取得要件をめぐる政治エリート間の利害関係をフォーマルモデル化し、そのうえでエストニアとラトヴィア2か国の具体的な事例について現地新聞資料などを踏まえながら分析、執筆した。国籍取得要件は有権者の範囲を決定するため,現地の政治エリートの自己利益(再選可能性)を減じないように制定されていることを明らかにした。当該成果は共著論文として年度内に出版された。本成果は限られた範囲の事例研究に大きく依拠しているが、並行して中東欧全体を対象とした計量分析を実施しており、当該成果については日本選挙学会にて報告した。 (2)については、ある一定の条件下において選挙が近づくと,人々の民族アイデンティティを高める効果を検証したものであり、ミシガン州立大学の東島雅昌氏との共同研究である。中東欧諸国を含む新興民主主義国家20か国を対象に、多数派民族集団のアイデンティティ高揚を対象とした研究については、日本比較政治学会にて報告したのちに査読付雑誌への掲載が受理されている。バルト諸国のみを対象に、多数派民族と少数派民族の双方のアイデンティティ変化を細かく観測した研究については米国APSAの年次大会での報告が受理され、当該ペーパーは米SSRNウェブサイトの数分野において,8-9月のトップ10ダウンロードリスト入りした。
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