研究概要 |
トリチウム水からトリチウムを効率よく回収するため,水素吸蔵合金電極を用いたトリチウムの回収法を提案し,検討を行った。平成12年度に吸蔵合金中に吸蔵された水素の同位体比測定装置を作成した。ガスの吸蔵反応において,重水素より軽水素の方が安定なPdを電極として使用すると,電解時間の経過とともに電極内部に軽水素が濃縮されるが,軽水素より重水素の方が安定なVを電極材料として使用すると,わずかではあるが,重水素が濃縮されることを見いだした。このような現象は今までに報告されていない。しかし,V電極は電解吸蔵の効率が悪く,濃縮率にばらつきが見られ,再現性に問題があった。そこで,Vの水素吸蔵量を増加させるためVにPdやPtを蒸着させたが。V単独では重水素の濃縮したのに対し,PdやPtを蒸着した場合、重水素の濃縮は見られなかった。次に,Vと同様に軽水素より重水素の方が安定なLaNi_5について検討した。電解時間1時間では重水素の比率が15%であったが,電解時間の増加とともに重水素の比率は増加し,電解時間10時間では40%に増加した。しかし,H/LaNi_5=4以上の水素を吸蔵させると,電極が壊れ,それ以上の水素を吸蔵させることはできなかった。 水素吸蔵合金中での同位体濃縮挙動を説明するため,陰極上で軽水及び重水が電解され合金中に吸蔵される反応と,合金中からH_2, D_2, HDを放出する反応を仮定し,それぞれに反応速度定数を与え,反応を模擬した。Pd中では重水素の方が軽水素よりも脱離速度が速いと仮定すると電解時間の増加と共に吸蔵された重水素の比率が減少するという実験結果を再現することができる。反対に,VやLaNi_5では,軽水素の方が重水素よりも脱離速度が速いと仮定すると電解時間の増加と共に重水素の比率が高くなるという実験結果を再現することができる。この仮定が正しければ,電極を工夫し,更に水素を吸蔵させれば軽水素より重水素を濃縮できる可能性があることを示唆している。
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