研究概要 |
本研究者の開拓した光学活性ジホスフィンとジアミンを配位子とするルテニウムジクロロ錯体は、アルカリ塩基の存在下、種々の芳香族およびα,β-不飽和ケトン類、アミノケトン類等の水素化に対して極めて高い触媒活性とエナンチオ選択性を示す。この塩化物錯体は、大気中でも安定なため操作性に優れているが、活性種を発生させるために強塩基の添加が不可欠である。したがって、塩基性条件下で不安定なケトン類の水素化には適用が困難であった。本研究では、塩基を添加せずに活性種を発生する触媒前駆体の探索研究を行った。 塩化物錯体trans-RuCl_2[(S)-xylbinap][(S,S)-dpen](XylBINAP=2,2'-ビス(ジ-3,5-キシリルホスフィノ)-1,1'-ビナフチル、DPEN=1,2-ジフェニルエチレンジアミン)に水素化ホウ素ナトリウムを作用させることにより、ヒドリド錯体trans-RuH(η^1-BH_4)[(S)-xylbinap][(S,S)-dpen]を得た。この錯体は、塩基無添加条件でケトン類の水素化に対して極めて高い触媒活性とエナンチオ選択性を示した。例えば、アセトフェノンを10万分の1当量の錯体を用い、水素8気圧で水素化すると、反応は7時間で完結し、(R)-1-フェニルエタノールが99%の鏡像体過剰率で得られた。次に、塩基性条件下で容易に異性化するラセミ体α位置換シクロヘキサノン類の不斉水素化を経る速度論分割を検討し、所期の目的を達成した。例えば、α-メトキシシクロヘキサノンをtrans-RuH(η^1-BH_4)[(S)-xylbinap][(S,S)-dpen]の存在下で水素化し、53%の変換率で反応を停止すると、Rケトンが94%の鏡像体過剰率で回収された。この光学活性ケトンは抗菌剤として期待されるサンフェトリネムの合成中間体として重要である。
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