研究課題
基盤研究(C)
本研究は平成16年度から17年度の2ヵ年にわたり、前期ヘアー倫理学における「道徳」概念に関して考察を行ったものである。第1年度は、前期ヘアーの第1の主著である『道徳の言語』と「倫理学」と題された論文における「道徳」概念の検討を行った。第2年度は『自由と理性』における「道徳」概念の検討を行うとともに、ヘアー倫理学の提唱する道徳的思考の可能原理とも言うべき「他者理解」の構造に関するヘアーの理論を検証した。検証の結果、少なくとも前期ヘアーの倫理学においては、「道徳」の概念規定が極めて不明確であるという結論を得た。ただし後期の主著である『道徳的思考』を中心として提示されることになる「他者理解」の構造に関する理論の萌芽は、『自由と理性』において既に明瞭であることが確認できた。ヘアーは『自由と理性』において、道徳問題の成立する領域には「功利主義的」なものと、「理想主義的」なものがあるとしている。「功利主義的領域」とは、異なった「利益の衝突」が問題になっている領域であり、「理想主義的領域」とは、異なった「理想の衝突」が問題になっている領域である。ヘアーは基本的に、功利主義的領域で成立している道徳問題は、彼の提唱する道徳判断の普遍化可能性テーゼに基づき解決可能であるとする。しかし普遍化可能性テーゼに従い、他者の利益を自己の利益と仮定した上で道徳的論証を展開しても、両者の利益実現に対し、十分な合理的理由が見出され得る場合はあり得る。他方、異なった理想の衝突に起因した道徳問題は、当事者が自己の理想に言わぱ狂信的な仕方で固執している場合、ヘアーの立脚する形式主義の立場からは、原理的に解決の方法がないとされ、このような問題に対しては「寛容」の精神を持つことの重要性が示唆されるが、このような「寛容」の精神の要請根拠が彼の普遍的指図主義の理論からどのように導出されるかは、全く示されていない。ただし彼の議論を総合的観点から見た場合、「寛容」の精神の可能根拠は、我々の<他者理解>の可能性に根ざしていると考えられているように見受けられる。そこで本研究では、さらにヘアー自身の立脚する立場から彼の「道徳」概念を理解する試みとして、<他者理解>に関する彼の理論の検討を行った。
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明治大学教養論集 416
ページ: 1-19
The bulletin of arts and sciences(Meiji University) No.416
120001441370
Philosophy & Social Criticism Vol.31, No.4
ページ: 487-498
科学技術社会論研究 第3号
ページ: 7-20