本研究の結果、国際比較的観点からみるとき、日本において一般的な医師就業形態である「開業医」の存在こそが、日本の医療システムを個性化するものであるということが確認された。第一に、医師が自ら病院を建設する点に、日本の医療システムの顕著な特徴があるが、これは、開業医が、20世紀初頭までに、自己の診療機関に病床を設置する傾向を有するようになったことで形成されたものであったことが実証された。そして、第二に、開業医が自らの病床を所有する慣行の背景には、戦前の学歴階層差を含んだ複線的医学教育にもかかわらず、すべての階層の医師が、卒後病院での勤務を長期化させる傾向があったことが確認された。これらは、開業医の病床所有の傾向は、開業医の病院医療に関する知識・技能の増大と一体となった現象であったことを示唆している。 なお、本研究の過程において、以下の成果を発表した。 1)学会報告 猪飼周平(単)「20世紀初頭における医師のキャリア・パス分析社会経済史学会(第74回全国大会パネルディスカッション「日本の近代経済成長と教育」) 2)共著 猪飼周平「近代日本医療史における開業医の意義 病院の世紀の論理による医療史再構成に向けて-」佐口和郎・中川清編著『福祉社会の歴史伝統と変容』ミネルヴァ書房2005(第1章) 3)学会報告 猪飼周平(単)「20世紀前半における医療供給システム-医療の専門化・病院化と医療供給の構造変化-」(社会政策学会九州部会)
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