研究概要 |
本研究の研究成果は大きく分けるならば2点である.1つめの成果は,戦略ドリフト研究の意義をポジショニング・ビューやリソース・ベースト・ビュー(RBV)などの既存研究の流れの中に位置づけたことである.また2つめの成果は,1980年代初頭から始まり,1990年代に1つのピークを迎える日本企業の戦略研究について,その基本的な流れを整理したことである. まず1つめの戦略ドリフト研究の位置づけに関しては,ポジショニング・ビューとRBVの対立的な発展という学説史の中に,ダイナミックな社会的相互作用を含む経営戦略論を位置づけ,そのうちのひとつとして戦略ドリフトの概念を位置づけることができた点を指摘したい.また,意図の上では合理的な行為を行なう人々の相互作用を通じて意図せざる結果として戦略ドリフトが発生するという研究視点が既存研究の流れの中では比較的手薄であることも示され,この種の研究領域が今後有望であることを改めて示した. 2つめの成果は1980年代の初頭から始まり,1990年代に一定のピークを迎える日本の経営戦略研究の流れを位置づけたことである.野中郁次郎・伊丹敬之・加護野忠男という主要な経営学研究者が活発に研究成果を生んでいたこの時代の成果がいかに海外の研究に影響を及ぼし,しかし,それでいてその重要部分がなかなか受け継がれていないことが学説の検討から明らかになったと思われる.これらの研究成果をベースとして,組織メンバーや市場におけるダイナミックな社会的相互作用を視野に入れた戦略論の研究がますます魅力的なものとして認識される素地ができあがったと思われる.
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