研究課題
萌芽研究
近年、ヒトにおける痛み応答に関与する部位には、PETとfMRIによる研究から、第二体性感覚野、島皮質、anterior cingulated cortex(ACC:前帯状皮質)、反対側の第一体性感覚野および視床部が関与する事が知られるようになった。興味あることに、allodyniaなどの異常な痛みに対してACC領域以外の領域では血流量やfMRI-BOLD信号が上昇するのに対してACC領域では血流量やBOLD信号が低下することがある。さらに、ACC領域では痛みの強さや場所に関連した血流量の変化は起こらず、痛みによる不快感や嫌悪感などの「感情」に関する応答が起こる事が知られている。本研究では、ヒトACCに該当するラット脳cingulate cortex(CG)領域におけるホルマリン刺激に対する痛みに対する評価を刺激後24分間と比較的長く観察することにした。ホルマリン刺激を行った全ての個体において、第一体性感覚野領域のBOLD信号は、刺激直後から2分間の間にピークを迎えていた。その後、観察された24分後までBOLD信号は低下することなく4-5%程度のBOLD信号の増加を示していた。興味あることに、CG領域での時間変化は実験群の半数以上において、ホルマリン刺激後1分半程度にピークを示し、9%程度の信号上昇が観察され、刺激後信号が2%以下に一度低下した。その後、刺激後16分から再度信号は上昇した。第一体性感覚野領域でのBOLD信号は刺激後直ぐにピークを迎え、BOLD信号に観察された24分間に大きな変化がないことから、ラット脳CG領域は痛みの表現型そのものと考えることができる。第一体性感覚野などの体性感覚野領域は痛みの場所を特定し、ACCやCG領域では痛みに起因する感情的評価(不快感や嫌悪感)を表現していると考えることができる。今回実験を行った群において、CG領域で特異な反応が観察された。神経活動の上昇とBOLD-fMRI信号の上昇は等しいと考えられているが、現在までのところ、必ずしも等しいとは考えられていない。神経活動の増加により、局所的な酸素消費量の増加がおこり、デオキシヘモグロビン量がオキシヘモグロビン量を凌駕する。炎症性疼痛の後期や疼痛などの慢性痛における痛みはCG領域で強く起こっていることを示唆していることが可視化された。
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