研究概要 |
多数の個体によって共有されている資源への投資は、投資量を上回る量が回収できるとしても、投資しない個体(利己的)が投資する個体(利他的)より常に高い利得を得るために、進化しにくいと理論的に予測されている(共有地の悲劇、公共財ゲーム)。本研究の目的は、公共財ゲームを共有資源の時空間ダイナミクスを含む形に発展拡張させた数理モデルを構築し、利他行動の有利不利と、共有資源ダイナミクスの反応速度や拡散速度との関係を研究することで、どのような共有地では悲劇が回避されうるのかを、理論的に明らかにすることである。共有資源および生物個体の時空間ダイナミクスの双方に、反応拡散方程式を用いるモデルAについて、モデルの構築、解析およびコンピュータシミュレーションを行った。初期条件として、1次元空間の左半分に利己的個体、右半分に利他的個体が存在する状況を考える。空間の中央に存在する、利他的個体と利己的個体との境界がどちらに移動するかを考えることで、進化を考える。投資の効率が無限大となる極限においては、利己的個体だけの世界における利己的個体の平衡頻度は無限大となる。このような場合においては、(境界部分で戦っている利己的個体に援軍として到着する)右半分からの拡散が無限大となるため、利他的個体が利己的個体を駆逐する可能性があると考えた。しかしながら、モデルの等速進行波解がみたす力学系の、ヘテロクリニック軌道の存在について、解析的な研究を行ったところ、そのような等速進行波解が存在しないことを、厳密に証明することができた。さらにこの解析結果を支持する数値計算の結果も得た。以上の研究結果をまとめて、論文として投稿し受理された(Wakano JY, Mathematical Biosciences, in press)。
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