研究概要 |
地理情報システム(GIS)を用いた空間情報解析と現地環境調査により,水圏生態系(生物相・生息環境)の劣化が生じる条件を統計的に明らかにし,細粒土砂汚染域を推定する方法を構築することを目的とした.最終年度である今年度は昨年度の追加調査とデータ解析,学会成果発表,論文投稿に重点に置いた. 昨年度の成果の北海道の石狩泥炭地の小湖沼群を対象とした湖沼水質と関連付けた空間解析によって細粒土砂やアンモニア態窒素を主とした地表排水を由来とする成分の濃度が,湖沼に流入する水路数やその水路に連結する農地(水田・畑地)面積率の増加とともに高くなる傾向が得られている.また,浮遊した細粒土砂量を示すSS(浮遊物質)濃度が高い湖沼ほど農地開発後の移入種の個体数が増加することが明らかになっている.今年度の空間情報を用いたデータ解析の結果,湖沼に流入する水路数と湖沼の集水域の境界となる幹線排水路以内の農地面積率が細粒土砂汚染と関連する主要な空間的パラメータとなることが統計的に明らかになった.また,細粒土砂・栄養塩による水質汚染度合いが高い湖沼では,外来種を含む農地開発後の移入種が優占した魚類群集となり泥炭地の湖沼固有の魚類の分布に影響を及ぼしていることが示された.以上の成果から,細粒土砂汚染を防ぐために,湖沼に流入する農地排水路数と農地面積率の空間要素に注目した対策が必要であると結論付けた.一方,集水域が自然植生で構成されている釧路湿原の泥炭地湖沼での調査の結果,農地開発の進行した石狩泥炭地の湖沼と比べてSS濃度や栄養塩濃度が石狩泥炭地の湖沼で明らかに高く,土地利用の影響が大きいことがわかった. 以上の成果をまとめ,今年度は国際学会発表3件,研究セミナーでの発表2件を実施し,国際誌4報と国内誌2報を投稿している.
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