研究概要 |
生体関節の表面を覆う関節軟骨は,滑らかな関節運動を実現する軸受の役割を果たしており,その表面には摩擦を低く保つための高度な潤滑機能が備わっている.本研究では,関節軟骨組織に潤滑機能が発現するメカニズムについて,まず次のような仮説を立てた.「軟骨組織内部に存在する軟骨細胞が組織に負荷される流体せん断や,摩擦により誘起される圧縮,せん断ひずみといったトライボ刺激(Tribological Stimulation)に応答し,細胞外マトリックスの産生と組織構造形成を制御することで,関節内のトライボ環境に適応した関節潤滑機構を構築する」.この仮説を証明するため,三次元担体に播種された軟骨細胞に,任意の転がり滑り運動を負荷しながら培養することが可能な実験システムを構築した.このシステムを用い,アガロースを三次元担体とした培養組織試験片に転がり滑り運動を負荷し,細胞外マトリックスによる組織構造形成に及ぼす影響を評価した.その結果,3日間の静置培養の後,試験片表面に純滑りを加えながら更に5日間培養した試験片では,表層部に存在する軟骨細胞による細胞外マトリックス産生が促進され,培養組織表面近傍に糖タンパク複合体が高濃度に蓄積されることが示された.これは,培養中のトライボ刺激負荷により,生体軟骨類似の潤滑性表層構造が,再生組織に形成される可能性を示すものと思われる.また,培養中の細胞への物質供給および代謝生成物の移動を支配する,培養組織の物質輸送特性を実験的に評価し,培養による組織形成に伴う輸送特性の変化を明らかにした.さらに,再生組織の潤滑特性に大きな影響を持つと思われるタンパク質成分の潤滑性について,含水ゴムを再生軟骨モデルとした摺動試験により検討した.一連の実験では,モデル表面へのタンパク質吸着膜形成状態と,それによりもたらされる境界潤滑特性を明らかにした.
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