研究概要 |
相互作用する2種の共進化と軍拡競走を具体的な進化ダイナミックスとしての理論化し,進化動態の帰結の実証データを用いて検証すること試みた.まず,日本各地のヤブツバキとその種子捕食者であるツバキシギゾウムシの共進化を示すデータをもとに,ツバキの果皮厚とゾウムシの口吻長という防御(果皮厚)・攻撃形質(口吻長)の進化的エスカレーションを量的形質の共進化モデルとして定式化し,進化動態を解析した.南方集団ほど口吻長と果皮厚ともに増大するという観測された相関する地理的なクラインが,低緯度と高緯度地域の植物の生産力の差で説明できること,防御・攻撃形質の共進化的に安定な平衡状態における形質値が,実測されたように直線上に乗ることを理論的に明らかにした.また形質値の直線関係の傾きから,口吻長増大によるコストが非線形的でなければならないこと,さらに高緯度地域ほど平衡状態でゾウムシ優位になる(平均穿孔成功確率が大きくなる)ことも理論的に予測し,理論とデータとの高い整合性を得た.一方,資源競争による形質の分化と種分化の理論研究については,進化ゲーム理論由来の進化的安定性概念を進化ダイナミックスに拡張したadaptive dynamicsのアプローチと,量的形質遺伝学理論の統合を試み,oligomorphic dynamicsという全く新しい理論体系を提唱した.この理論により,頻度依存分断淘汰のもとでの形質分岐のプロセスが形質値の集団平均と遺伝分散の動態の枠組みに組み込まれ,突然変異,組み換え,ランダムドリフト等が種分化に与える影響を初めて理論的に解析することが可能になった.
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