研究概要 |
実際の運動指導現場での適用を意図して心音による運動処方の安全性を検討した上で,長期間のトレーニングの効果を現状の運動処方のゴールドスタンダードである乳酸閾値との比較で検証した。その結果,第一心音屈曲点相当の運動強度(HSBP)は心筋虚血を誘発しにくい安全性の確保された運動であると示唆された。またHSBPによるトレーニングは,高齢者の有酸素性作業能を有意に向上させ,その効果は従来の処方法と同様であることが示唆された。 男性7名(26±6歳)を対象にHSBPとその90%,110%強度で,自転車エルゴメーターを用いた60分間の固定負荷試験を行った。HSBPの運動中,心拍数は,運動開始後5分目(61.4±4.0%HRmax)と比して30分目(72.3±5.2%HRmax)から60分目(75.4±4.7%HRmax)まで有意な上昇が認められた。また,血中エピネフリン,ノルエピネフリン濃度は,運動開始15分目より60分目まで経時的に上昇することが認められた。一方,左室収縮期時間は,5分目(0.24±0.02秒)と比して15分目(0.21±0.02秒)から60分目(0.19±0.02秒)まで有意な短縮が認められたが,拡張期時間は運動中経時的な変化はなかった。このように一心周期に占める拡張時間の割合(55.8±2.6%)は運動中60分間に亘って一定に保たれていた。 中高齢者60名(69±7歳)を対象に乳酸閾値でトレーニングを行う群(35名)とHSBPでトレーニングを行う群(25名)に分け12週間のトレーニング効果を調べた,安静時から0.5mmol/L上昇した時点で判定した乳酸閾値は,両群ともにトレーニングにより有意に向上した(4.6±0.8→5.2±0.8vs5.0±0.6METs→4.7±0.6METs;p<0.05)。
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