研究概要 |
地図を読む、幾何学の問題を解くなどの視空間的能力において、男性は女性と比べて優位性を示すことが報告されており、このような性差はヒトのみならずサルやラットなどの他の哺乳類でも確認されている。従来、視空間的能力の性差は、脳の性分化により引き起こされると考えられていた。しかし我々は、ラットを用いた一連の研究から、この視空間的能力の性差が生後の環境の影響でつくられることを明らかにした(Endo et al.,1994;Takase et al.,2005a;Takase et al.,2005b)。とは言え、生後のどの時期の環境が視空間的能力の性差をつくるのか未だ不明であった。そこで我々は、雌雄ラットが性成熟する6週齢以降の時期に注目した。この時期はヒトでは思春期以降にあたる(Ojeda and Urbanski,1994)。本研究では視空間的能力という高次脳機能の性差が、思春期以降の環境によってつくられることを明らかにし、思春期以降の環境がどのように視空間的能力の性差をつくるのか、海馬体に注目し、その神経基盤の解明を試みた。現在まで、1)雌雄ラット海馬体内アセチルコリン分泌量は発達に伴い増加すること、2)6週齢以降は雄性ラットの分泌量が雌性ラットに比べて顕著に増加すること、3)その性差は6週齢以降の給餌環境の操作により解消されることを明らかにし、その結果を論文にまとめた(Takase et al.,Phsiol Behav:2007)。また途中、運動機能の性差を偶然発見し、その神経基盤を解明するに至った(Takase et al.,Brain Res:2007)。さらに、視空間的能力に関わる内側前頭前野においてもアセチルコリン分泌に顕著な性差を認め、現在その結果を論文にまとめ投稿中である(Takase et al.,Neuroscience:2007)
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