研究概要 |
本研究の目的は,アルツハイマー型認知症(AD)患者のQOL低下の要因である認知症の行動および精神症状(BPSD)に対する治療プログラムを確立することであった。BPSDは多彩な症状の総称であるが,本研究では最も患者を苦しませ介護の負担ともなる精神症状の一つである不安反応を標的症状とした。本研究において検討するリラクセーションプログラムは,健常者に対し有効であることが認められており(例えば,百々他,2003),認知機能障害を有する患者においても実施可能であった(百々・坂野,2007)。本研究は先行研究の結果を踏まえ,AD患者を対象とし,通常治療との比較ならびにプログラムのプラセボ効果を検討した。その結果,継続的なプログラムへの参加により不安反応の抑制が認められた。またこの効果はプラセボ効果によるものではなかった。さらに通常治療のみでは身体的QOLは悪化するが,定期的に心理学的介入を行うことで維持することが可能であることが認められた。 AD患者にとって,認知機能障害の重篤度よりも,BPSDの有無がQOL低下の要因となっている。アルツハイマー型認知症(AD)患者のQOL低下は認知機能障害よりもBPSDによる。BPSD発現とストレスとの関係が指摘されている。近年ストレス評価として精神免疫学的指標が広く活用されている。しかしながらAD患者を対象とした研究はほとんどなされておらず,基礎的資料は十分ではない。そこで本研究では,第二研究として,精神免疫学的指標の一つである唾液中コルチゾールが,AD患者のストレス評価の指標として適用できるかを検討した。その結果,唾液中コルチゾール濃度とBPSDの重症度との比較的強い相関関係が認められた。また唾液中コルチゾール濃度の日内変動が崩れていたことから,患者が慢性ストレス下にあることが示唆された。本研究より,唾液中コルチゾールはAD患者のストレス評価指標として活用する可能性が示唆されたと考える。
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