中世鎌倉集団の遺伝的な特徴を調べるために、鎌倉市由比ガ浜に埋葬された人骨のミトコンドリアDNA分析を継続してきた。本年度は36体(集団墓地29体、由比ヶ浜南遺跡7体)の分析を行った。過去3年間の分析結果と併せて84体(集団墓地53体、由比ヶ浜南遺跡31体)のDNA分析を完了した。ハプロタイプの決定ができたのは合計で54体、成功率は64%であった。 由比ヶ浜集団墓地遺跡では31個体から24のDNAハプロタイプを、由比ヶ浜南遺跡では23個体から18のハプロタイプを検出した。複数個体が同一のハプロタイプを持っていたのは、双方の遺跡を合わせても10組で、さほど多くはない。いずれの遺跡でも特定のハプロタイプが集中するということはなく、限られた血縁集団の墓地ではないことが明らかとなった。双方の遺跡で共通するハプロタイプは5種類であり、双方の墓域に埋葬された人々の間にも特定の血縁関係は認められなかった。 双方の遺跡のデータを合わせてハプログループ頻度を計算し、それを日本の各時代・地域の集団と比較した。更に各集団のハプログループ頻度からPairwise Fstを計算して、その数値をもとに系統関係を推定した。その結果、中世鎌倉集団は現代日本人集団にもっとも近縁であることが示された。従って、日本の基層集団である縄文人と渡来系弥生人による混血も、この時代の大都市である鎌倉では、すでにその後の日本人につながる遺伝的組成として完成していたこと判断して良い。従来の日本人成立論では、渡来系弥生人の影響は歴史時代を通じて東進し、現在でも関東以北の地域では縄文系の集団と渡来系集団の混血が続いていると捉えているが、今回の結果を見る限り、細部では地域差が認められるだろうが、より早い段階で大方の混血の過程は終了したと考えられる。
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