研究概要 |
アルツハイマー病(AD)発症の主因の一つとされるアミロイドβペプチド(Aβ)。このAβを脳内で分解する主要プロテアーゼ「ネプリライシン(NEP)」の活性制御機構を明らかにすることは、脳内Aβレベルを制御する上で極めて重要である。これまでに神経栄養因子NGF,BDNF,NT-3,NT-4の作用により、NEPの活性が著しく低下する事が確認された。この機構には、MAPキナーゼ(MAPK)経路が関与していた。さらに、NEPの細胞質領域(N末端)にある5カ所のセリン/スレオニン残基のうち、ある特定のセリン/スレオニン残基のリン酸化が、NEPの活性制御に関与していることが明らかとなった。しかも、リン酸化型NEPは、細胞膜上から細胞内へと局在を変化させることも明らかとなった。これらの結果から、NEPは、N末端のリン酸化により、細胞表面からの局在が変化することで、細胞外に分泌されたAβに対する分解能が低下していることが明らかとなった。一方、NEPのN末端の脱リン酸化の効果を検討するために、フォスファターゼ阻害剤を用いた解析も行った。その結果、PP1Aとカルシニューリンの各阻害剤によりNEP活性の低下が認められた。 脱リン酸化をミミックした(リン酸化を受けない)NEPコンストラクトに恒常的活性化能があることも見出された。総じて、NEPは、細胞質領域(N末端)のリン酸化状態によって、細胞表面での活性/局在が制御されていることが明らかとなり、この機構に関わる因子が細胞表面NEP活性の増強・保持に重要であることが明らかとなった。すなわち本研究により、AD予防・治療のための新規創薬標的を見出すことができた。本成果は、現在投稿準備中である。
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