【研究目的】 本研究は、中国語方言話者の日本語学習における日本語音聴取の問題点を明らかにし、学習者の問題点改善に効果的な教材を開発することを目的とするものである。 本研究では、日本語教育現場において広く知られている中国語話者の「ナ行音とラ行音の聴取混同」を事例として、聴取混同の実態を調査し、学習者の聴取練習の支援を行う。また、教材開発によって国内外の日本語学習者の自律学習を可能とし、聴取の問題点改善を促していくことを目指す。 【研究方法】 本研究では、ナ行音・ラ行音の混同が予測される地域である、中国の福建省福州市の大学の日本語学習者51名、および湖北省武漢市の大学の日本語学習者38名、合計89名を対象に聴取調査を実施した。 次に、聴取調査結果をもとに、e-learning教材を開発した。さらに、本教材を使用した学習者6名を対象に調査を実施し、教材の効果を検証した。 【研究成果】 本調査結果から、湖北方言話者と福建方言話者のナ行音・ラ行音の聴取混同における共通点と相違点が明らかになった。今までの音韻習得研究では、中国語の方言差はあまり考慮されてこなかったが、本研究で方言別に誤聴しやすい音環境が明らかになった。この研究成果により、学習者の母方言を踏まえた聴取練習教材開発が可能となった。 本研究によって得られた知見からe-learning教材『日本語音の聞き分け練習』を開発し、国内外の学習者が自由に使用できるようweb上で公開した。本教材は「自己診断テスト」「練習問題」「振り返り」の三つのパートで構成されており、学習者が自分の問題点に合わせて聴取練習ができるようになっている。本教材を使用した学習者は、自分の誤聴傾向を具体的に把握できることが明らかになった。また、本教材の使用によってナ行音とラ行音の音声特徴に関する様々な気づきが得られ、音韻習得が促されることが示唆された。
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