研究概要 |
リーラー奇形マウスは発生期の中枢神経系における神経芽細胞の移動障害のために, 中枢神経系のさまざまな領域に細胞構築の異常を呈する奇形マウスである. この奇形マウスの層構造を呈する領域, たとえば小脳皮質, 大脳皮質, 海馬, 蝸牛神経背側核などは特に強い細胞構築上の乱れを呈するが, 非皮質構造を呈する脳幹の神経核や視床の神経核には弱い異常をみとめるにすぎない. 一方, GTP結合蛋白質(G蛋白質)はαβγサブユニットからなるヘトロトリマー構造をもつ膜結合蛋白質で, 細胞間の情報伝達系に関与する. G蛋白質はGs, Gi, Go, Gtの4つのサブユニットに分類される. このうちGoは脳に多量に含まれ, 近年二・三のグループにより独立にツナプス部に存在することが明らかにされている. 本研究は, Go蛋白のαサブユニットに対するポリクローナn抗体を用いて, 正常マウスとリーラーマウス脳におけるGoの局存を免疫組織化学的に研究したものである. 正常マウス, リーラーマウスともにGo陽性産物はニューロピルに存在し, ニューロンの細胞質には存在しなかった. しかし後述するように大脳, 海馬などの層構造を呈する領域では, 正常マウス, リーラーマウス間にGo免疫陽性産物の分布に差をみとめた. 正常マウス大脳では強い免疫陽性産物が大脳皮質分子層に存在した. またII〜VI層の細胞層では, ニューロピルが染まり, 錐体細胞の細胞層や樹状突起特に頂上樹状突起の細胞質は染まらなかった. 一方, リーラーマウスでは表層の多形細胞層と大型錐体細胞層に比較的強いGo免疫陽性産物が存在し, この両層の深層にある顆粒層と中型・小型錐体細胞層には中等度のGo陽性産物が存在した. 本研究の主要な結論は, Goの中枢神経系内分布状態(ニューロピルに豊富で細胞質にない)が, リーラマウスにおいても保持されているというものである. したがって受容体よりみれば, リーラーのツナプスは正常に機能すると思われる.
|