研究概要 |
副腎由来の株化細胞PC12は, 神経成長因子(NGF)によりアドレナリン作動性神経分化を, あるいはグリア細胞由来の蛋白性因子(GCM)によりコリン作動性神経分化を遂げることが知られている. 本研究では, ビタミンA誘導体の1つであるレチノイン酸(RA)のPC12細胞の神経分化に対する作用と, RAによる細胞内情報伝達機構を解析した. 培養下のPC12細胞に10^<-6>MのRAを加えると, NGFやGCMにより引き起こされるような神経突起の伸長はみられなかったが, 細胞の増殖が著しく抑制された. RAにより, PC12細胞に含まれるコリンアセチル基転移酵素(ChAT)活性は約2倍に増加し, チロシン水酸化酵素(TH)活性は約50%に減少した. 他のビタミンA誘導体であるレチナール, レチノールはこのような作用は示さなかった. これらの結果はRAが特異的にPC12細胞のコリン作動性神経分化を誘導することを示す. RAとGCMは共に, PC12細胞の細胞内Ca濃度を持続的に増加させた. 一方, NGFはそのような作用は示さなかった. RAあるいはGCM存在下で培養したPC12のホモジネートを〔^<32>PATPとインキュベートすると, 未処理あるいはNGF処理の細胞ホモジネートに比べて, 分子量約27,000の蛋白質(27K蛋白)のCaに依存したリン酸化が特異的に増加していた. 27K蛋白のリン酸化は, Ca依存性蛋白リン酸化酵素の阻害剤であるH7やW7により阻害され, C-キナーゼの活性化因子であるTPAにより増加した. PC12細胞にH7, W7を加えて培養すると, これら阻害剤はRAによるChAT活性の増加を特異的に抑制した. これらの結果は, RAやGCMによるPC12細胞のコリン作動性神経分化が, 細胞内Caの増加およびそれに続いて起こるCa依存性蛋白質リン酸化反応によって引き起こされる可能性を強く示唆する.
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