研究概要 |
熱・亜熱帯圏における果実類の重要害虫であるミカンコミバエとウリミバエについて,それらの誘引因子の化学分析と生態学的機能の解析を以下のように実施した。 1.ミカンコミバエ誘引因子の解析 ミカンコミバエの雄成虫は、メチルオイゲノ-ルに誘引されるが、シンガポ-ルにおいて同亜種を誘引する植物Spathiphyllum commutatumにはメチルオイゲノ-ルを含まない。分析の結果,同関連物質として,オイゲノ-ルと3ー(3,4ーdimethoxyphenyl)ー2(E)ーPropenー1ー01を検出した。訪花中のミバエ雄成虫体より,cisーおよびtransーconiferyl alcoholならびに6ーoxoー1ーnonanolの存在を認確した。 2.ウリミバエ誘引因子の解析 ウリミバエの雄成虫は,キュ-ルアに誘引されるが,同物質を含まないランの一種Dendrobium superbumの花に強く誘引されることから,誘引成分を追跡した結果,4ー(pーhydroxyphenyl)ー2ーbutanoneをその活性因子として同定した。ランに集まった成虫の直腸分泌腺には同物質が有意量蓄積されることが判明した。 3.ミバエ類雄成虫の蓄積する直腸分泌腺成分の生態学的機能の解析 メチルオイゲノ-ルを摂取したミカンコミバエ雄成虫は直腸織内に2ーallyー4,5ーdimethoxyphenolとtransーconiferyl alcoholを選択的に蓄積する。同摂取個体は,捕食性動物に対する忌避性あるいは毒性を示したことから,防御物質としての機能を示唆した。一方,キュ-ルアを摂取したウリミバエは,その脱アセチル化体を直腸腺に蓄える。配偶行動の観察結果から,とくに雄ー雄間相互作用に関係したフェロモン機能をもつ可能性が示唆された。ミバエ類雄による芳香族物質への特異的誘引現象は,生態学的に合目的性をもつものであることを裏づけている。
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