研究概要 |
大腸菌をはじめとしていくつかの細菌ではグルコースは2つのルートで細胞内へ取り込まれる。その1つはグルコース脱水素酵素によりグルコースをペリプラズム側で直接酸化し,グルコン酸として細胞内へ取り込む(GDH)系である。この系は呼吸鎖と連結し,膜エネルギーの形成に寄与する。もう1つはグルコースをリン酸化して取り込むホスホトランスフェラーゼ(PTS)系である。本研究はこの2つの系の大腸菌の増殖過程における生理的役割を明らかにすることを目的とした。 グルコース脱水素酵素遺伝子(gcd)の解析を行って次のことを明らかにした。1)gcd遺伝子構造解析および膜上構造解析により,グルコース脱水素酵素は膜を5回横切り,c末側がペリプラズム側に局在し,グルコースの直接酸化を行ない,チトクロームオキシダーゼへ電子を伝達して,膜エネルギーを形成する。2)gcd遺伝子はcAMP-CRPにより負に,Fnrにより負に発現調節されている。3)それらの結合部位は部位特異的変異法により決定した。特にFnrは2ケ所に結合し,DNAを湾曲して制御していると推測された。4)gcd遺伝子の破壊株を作製し,gcd遺伝子及び遺伝子産物の細胞における役割を検討した。5)gcd^-Δpts株を作製し,その生育をgcd^-やΔpts株のものと比較した。 PTS系の構成成分の遺伝子がcAMP-CRPにより正に調節されていることおよび,細胞内のcAMP濃度が増殖初期に低く,対数増殖期後期に高くなることから,GDH系は細胞の増殖初期に発現し,膜エネルギーを形成して,細胞の増殖に必要な栄養源の輸送や,タンパク質合成などを可能にすると考えられる。一方、PTS系は増殖後期に発現し,効率的なグルコース代謝を行うと考えられる。このような発現調節によって合理的なグルコース代謝を可能にしていると思われる。
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