大多数の被膜ウイルスにおいて、ゲノムの細胞への侵入は宿主細胞膜との融合により行われ、この活性を担うF糖蛋白は非活性前駆体から宿主プロテア-ゼによる限定切断を経て形成される。この限定切断が限られた組織でのみ起こるか、全身諸組織で起こるかは、基質切断部位の構造の違いに依存し、かつ、ウイルストロピズムを決定する一大要因である。また、各種生理的プロ蛋白質との間に見られる切断部位の構造モチ-フの著しい共通性は、細胞生物学的にも注目される。しかし、切断酵素そのものの解明が殆ど進んでいないのが現状である。我々はこの種の生体酵素の最初の例として、センダイウイルスなどを活性化する酵素をニワトリ胚から単離、精製し以下の結論を得た。本酵素は、33kdと23kdのサブユニッとからなり、中性至適phを示すカルシウム依存性セリンプロテア-ゼであり、ビタミンK依存性蛋白であるプロスロンビンファミリ-と高い相同性を示し、血液凝固第十因子そのものであることが強く示唆された。33kdサブユニットにはプロテア-ゼ活性ドメイン、23kdサブユニットにはγカルボキシグルタミン酸(Gla)残基を持つカルシウム結合ドメインが存在すると推定された。我々はさらに本酵素のcDNAと抗体を作出しニワトリ胚組織での発現の検討を作っている。これまでのところ、胚内でのウイルストロピズムは本酵素の異所性発現のみに依存していることを示唆する結果を得ている。
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