本研究の目的は、「元素ごとの、変換を必要としない直接的な3次元の構造解析法」を新たに開発する事である。ここで用いる原理は、「円偏光X線を試料に照射して、出てくる内殻光電子の2次元的な放出角度分布パターン(光電子回折パターン)の中の前方散乱ピーク位置を測定し、円偏光の極性を左右に変えたときのピーク位置のずれか原子の結合方向と結合距離を直接解析する」というものである。 円偏光励起の光電子については、研究が始まったのが最近であり、まだ十分に理解されていないことが多い。そこで、円偏光を励起光源とした種々の光電子分光の実験をSi (100)面において行った。数百eVの運動エネルギーでのSi2p内殻光電子円偏光励起光電子回折の実験に引き続き、偏光の影響をみるために、同じ系での楕円偏光励起光電子回折を行った。次に、始状態の影響を調べるために、価電子を始状態とした円偏光軟X線光電子の測定を、数百eVの運動エネルギーで行った。さらに、数十eVの運動エネルギーでも行い、厳密な計算と比較して円偏光励起光電子分光について理解を深めた。Siについての円偏光光電子回折の実験では、結晶内の光電子の多重散乱の効果が大きいので、もっと単純に議論できる系として、米国のALSでW (110)上の酸素吸着系について実験を行い、解析した。これらの全ての議論により、円偏光光電子回折の理論的な基礎を確立し、新しい3次元構造解析法を開発した。
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