北海道噴火湾のほぼ中央部の水深90メートルの所で定点観測を実施した。1995年春から8月にかけて海水中の笑気ガスの鉛直分布を表面から10メートルの間隔で9層、1月に1回の頻度で観測を行った。観測の際には同時に塩分、温度、気温、硝酸を含む栄養塩の測定を行った。表面水中の笑気ガス濃度は春から夏に40から35nmol/lと減少したのとは対照的に、春期から夏季にかけて溶存酸素量の減少に伴い低層水の笑気ガスの含有量は約35から100nmol/lと著しい増加が観測された。表面水中の笑気ガス濃度は通年を通して過飽和であり、年間を通して常に大気への供給源であった。1995年の平均飽和度は380パーセントで、年平均の大気への逃散フラックスは20micromol/m2/dayであった。硝酸との関係は通常の海洋表層水でみられる直線関係は見られず硝酸の増加を伴わない笑気ガスの生成つまり脱窒過程に伴う笑気ガスの生成が行われていることが判明した。これまでの室内実験の結果を見ると硝化作用によって出来る笑気ガスと脱窒過程によって出来る笑気ガスの同位体組成は大きく異なっていることから、このような沿岸域で生成した大気中に放出される笑気ガスは大気中の重要な温室効果気体である笑気ガスの同位体収支に大きく影響を与える可能性があることが判明した。特に、成層圏での笑気ガスの分解による同位体組成の変化のみでは現在の大気中笑気ガスの同位体バランスが保てない問題がスクリップス海洋研究所のキム博士によって指摘され、未解決のままに現在になっているが、沿岸域での脱窒過程に伴う笑気ガスの見積もりが過小である可能性が本研究で明らかになり、今後同位体分析の結果を加えて研究と押し進めることが急務であることが明らかになった。
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