研究概要 |
植物の発芽とその後の発生過程では、分裂組織の細胞は内外環境のシグナルのもとに分裂を開始して植物の形態形成に関わっている。本研究は、ヒストン遺伝子のS期特異的転写発現に深く関わっているタイプlシスエレメントが植物の発生過程において如何なる役割を果たしているかを究明すべく設定され、2年間の研究において以下のような成果を得たので、その概要を報告する。 1)形質転換細胞系におけるタイプI, II, IIIの各エレメントの機能解析:コムギヒストン遺伝子では、HexモチーフとOctモチーフから成るタイプIエレメントの解析が進んでいたが、この研究では、このエレメントに加え、新たにタイプII及びIIIのエレメントがS期特異的転写に関わっていることを、形質転換タバコ培養細胞(BY2)を用いて明らかとなった。これら3つのエレメントには、いずれもOctモチーフが含まれているほかに、それぞれ固有のもう1つのシス配列が含まれていて、その2つのシス配列が協調的に働くことによってS期特異的転写が起ることが明らかにした。さらに、タイプIエレメントによる制御機構として、Hex配列結合因子のHBP-1a及びHBP-1bがOct配列結合因子のOBRFをリクルートする因子として働いているであろうことも推定された。 2)形質転換タバコ植物におけるタイプIエレメントの機能解析:タイプIエレメントの植物体での機能を知るために、H3遺伝子のプロモーターとCaMV35S最小プロモーターに3コピーのタイプIエレメントをつないだリポーター遺伝子を持つ形質転換タバコを作出し、この植物体での各プロモーター活性を比較したところ、H3プロモーターは主根、側根、茎頂などの分裂組織で活性を持つが、タイプIエレメントを持つ35Sプロモーターは側根と茎頂のみで活性を持ち、主根では活性を示さないことが明らかとなった。この結果、H3プロモーターが分裂組織特異的活性を持つためには、タイプIエレメントは他のシス配列と協調的に働く必要性のあることが示唆された。
|