研究概要 |
本研究では,神経細胞の分化過程におけるユビキチン蛋白質の働きについて明らかにするための第一段階として、神経細胞分化時の細胞内ユビキチン蛋白質の変動について調べた。まず、神経細胞分化時のユビキチン蛋白質の細胞内変動についてin vivoでの検討を行った。材料にはラットの胎児の後根神経節を用いた。後根神経節細胞をユビキチンに対する抗体により免疫染色を用い、ユビキチン様物質の存在を調べたところ、胎生16日頃から後根神経節細胞の核がユビキチン免疫陽性となり、その後細胞核の免疫陽性が高まり、胎児19日から出産後3日でピークとなることがわかった。 次に、生化学的解析のし易い株化細胞を用いてユビキチン蛋白質についての解析を行った。NGFを作用させたPC12h細胞にユビキチン抵抗を用いて免疫染色を行ったところ、後根神経節で観察されたのと同じく、細胞核がユビキチン免疫陽性となった。一方、NGFを作用させていない対称群の細胞では、核も細胞質もうっすらと免疫陽性、であるのみだった。細胞内のユビキチン蛋白質の大部分は、遊離型のユビチキンとして存在するか、もしくは、鎖状結合型ユビキチン蛋白質が増加するかを、ELISA法とRIA法を用いて調べた。その結果、NGF添加により、細胞核内では、鎖状結合型のユビキチンが増加し、遊離型ユビキチンが減少していることがわかった。 このことから、神経分化時に核内で標的蛋白質を鎖状にユビキチン化する過程が加速されているか、もしくは鎖状にユビキチン化された標的蛋白質の分解速度が遅くなっているか、あるいは、その両方の現象が起きていることが予想された。今回の結果は、すべてユビキチン-プロテアソーム蛋白分解系と神経分化との密接な関係を示唆するものと思われる。今後研究を進めることにより、神経分化とユビキチン蛋白分解系の関わについて更に明らかにされることと期待される。
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