本研究課題に関しては、ラットを用いて、クリック音刺激に対する前庭系ニューロンにおけるc-fosの発現に関する研究を開始した。具体的には、ABRにおけるクリック音に対する閾値を測定し、閾値上80dBのクリック音を1時間負荷し、その直後に還流固定し、脳を摘出した。凍結したうえで薄切したのち、免疫染色を行いfos蛋白の発現を顕微鏡下にて検索した。脳幹の前庭神経核においては一部fos蛋白の発現と考えられる所見が得られたが、染色性に問題があり、現時点では確実なfos蛋白の発現は確認されていない。今後、刺激音の種類、刺激時間、動物の固定方法、染色法に改良を加え、さらなる検討を加える予定である。また、来年度はトーンバースト刺激に対する前庭系ニューロンの反応に関する生理学的実験も予定している。 また、これと平行して、ヒトにおける前庭系ニューロンの音刺激に対する反応の研究、すなわち、前庭性頚筋電位の研究(VEMP)を行った。この研究では、VEMPが、聴神経腫瘍の診断、とくに下前庭神経の障害の診断に有効であることが明らかとなった。また、動物実験において、前庭神経ニューロンは、500Hzから1000Hzのあいだに特徴周波数をもつことが明らかになってきたが、ヒトの場合にも同様の特徴のあることが、われわれのショートトーンバーストを用いた実験から明らかになってきた。来年度もこれらのヒトに関する研究も平行して進めてゆく予定である。
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