研究概要 |
Mycoplasma salivarium(Ms)細胞からTriton X-114 phase separation法で得たリポタンパク質(LPsal)が線維芽細胞(HGF)に対してICAM-1誘導活性を示した。その活性はproteinase K処理で影響を受けなかったが、lipoprotein lipase処理で完全に消失した。そこで、LPsalならびにproteinase Kで処理したLPsal(LPsal/pro-K)のmonocyte Western blot法によりICAM-1誘導活性を調べた。LPsalでは、数個のリポタンパク質に活性が見られたが、LPsal/pro-Kでは、分子量20キロダルトン(kDa)以上のリポタンパク質は全て消失していたが、活性はゲルの先端部分に検出された。このことから、活性物質は、活性を示したタンパク質に共通に存在し、しかもproteinase K抵抗性の物質であるものと推測された。Ms細胞膜からn-octyl-β-glucopyranoside抽出法で得たリポタンパク質では、44kDaのリポタンパク質(Lp44)のみがHGFに対して強いICAM-1誘導活性を示し、また本活性はlipoprotein lipase処理で消失した。Lp44のN末端アミノ酸配列はCGDPKHPKSFTEWVあり、N末端のCのアミノ基はフリーであった。原核生物のリポタンパク質はN末端のCにリピドが結合していることが知られている。そこで、Lp44の活性発現領域はN末端のCにリピドが結合しているリポペプチド部分ではないかと推測された。Lp44の活性発現領域の構造ならびに性状を明らかにするために、Lp44をproteinase Kで処理した後、HPLCによる逆相クロマトグラフィーで精製を試みた。その結果、活性物質は約80〜90%のイソプロパノールで溶出され、疎水性が非常に強いことがわかった。活性物質の構造を明らかにするために赤外吸収スペクトルを調べた。なお、標準物質として2,3-[bis(palmitoyloxy)-(2-RS)-propyl]-N-palmitoyl-(R)-cysteine(Pam3Cys)を用いた。赤外吸収スペクトルにより、活性物質はPam3Cysと同様に脂肪酸がエステル結合している物質であることが判明した。以上の結果から、HGFにICAM-1を誘導するM.salivariumの細胞膜に存在する物質の一つはLp44であり、その活性発現領域の構造はCGDPKHPKSFTEWVのCにリピドが結合したリポペプチドであることが示唆された。そこで、2,3-[bis(palmitoyloxy)-(2-RS)-propyl]-CGDPKHPKSFを化学合成し、HGFに対する強いICAM-1誘導活性を調べたところ、非常に強い活性を示した。現在、このリポペプチドの他の活性についても検討中である。
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