研究概要 |
遺伝子重複は遺伝子の機能分化を促進する重要な分子進化の機構である。 幾つかのアイソザイムはpH環境や温度などにより発現の仕方が異なっていたり,局在器官が限定されていたり,適応的な分化を遂げていると考えられている。これまでの研究では,それらアイソザイムが遺伝子重複に起源していることが多くの事例に見られることを明らかにしてきた。しかし種分化のレベルで見られるアイソザイムの遺伝子重複が適応的に分子進化しているかどうかは確かめられていない。そこで本研究では嫌気的条件と密接に関係しているアルコール脱水素酵素(ADH)のアイソザイムが重複している植物を比較し,適応的な分子進化が見られるかどうかを検討している。 これまで植物の粗抽出液からの酵素タンパクを電気泳動した結果,キク科の幾つかの分類群でADHの遺伝子重複が見つかった。非常に近縁な分類群の間で重複しているアイソザイムの数に違いが見られるため,キク科においてADHアイソザイムは重複を数度繰り返し,サイレンシングなどが頻繁に起きていることが予想される。また発現のパターンに組織特異性を示すもの,嫌気条件によって誘導されるものなど発現の仕方に幾つかの変異が見られる。重複した遺伝子が分類群ごとに特異的に進化していることも考えられ,生理的機能に直接的に働くADHのような遺伝子重複の進化が種分化に影響を与えるかどうか興味深い。 現在,重複しているADH遺伝子の配列を決定し,重複の起源を明らかにするところである。また分子進化の速度などから適応的進化が認められるかどうか検討を加えていく予定である。
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