研究概要 |
同一被験者による視聴覚刺激による訓練効果と母語に対する非母語,即ち米国語の干渉との関係を,電気的パラトグラムなどを用いて解明することを計画した.平成14年度は,応用編として,英語子音/r/・/l/に加えて日本語子音/r/・/s/・/t/を対象に,調音レベルでの母語と非母語の相互関係を調査した.被験者は日本語を母語とする成人日本語話者で,A群は英語での日常的なコミュニケーションを必要とする話者,一方B群は学校教育以外では特別な訓練は受けておらず,日常的な英語でのコミュニケーションを特別に必要としない話者,とした.分析には,各子音の電気的パラトグラムから,以下に示す2通りの方法,1)調音地図による類似性,2)時間特性,即ち舌-口蓋接触の変化速度,を用いた.結果は以下の通りであった.1.調音地図より各被験語の類似性:話者・A群では英語子音/r/・/l/はそれぞれ離れた位置にあり,またそれらは日本語子音/r/・/s/・/t/のいずれの調音とも異なった位置で調音し,類似性は認めなかった.一方,話者・B群では英語子音/r/・/l/と日本語子音/r/は重なり,相互に類似する傾向が認められた.しかし日本語子音/s/・/t/はそれらとは明確に異なった位置で調音していた.2.時間特性より各被験語の変化速度:話者・A群の英語/l/音は日本語/r/音の変化速度に類似し,また英語/r/音では英語/l/音とは異なり,急激な速度の低下傾向が見られた.一方,話者・B群の英語/r/音は日本語/t/音に類似した傾向を,また英語/l/音は語者・A群の英語/r/音に類似した変化速度を示した. 以上より,電気的パラトグラムによる観察から日本語話者の英語の習熟度が非母語調音への母語の干渉に影響を与えている可能性,また視聴覚刺激による訓練だけでなく,パラトグラムを用いた日常的な訓練の重要性などが,示唆された. 尚,被験者に関しては実験の趣旨を説明し同意のもと行った.
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