サルモネラ菌、赤痢菌、腸管病原性大腸菌EPEC、エルシニアなどの侵入性病原菌は、タイプIII病原因子輸送装置であるニードル複合体によりホスト細胞に病原因子を打ちこみ、ホストの細胞骨格を組替えて自分の侵入に適した環境を作り上げる。これまでにサルモネラ菌を初め、赤痢菌やEPECのニードル複合体の構造を解析してきたが、本研究においては、さらにその構造の詳細を調べることを目的とした。 腸管病原性大腸菌EPECめタイプIII病原因子輸送装置はサルモネラ菌や赤痢菌のそれと異なり、ニードル複合体の先にEspAと呼ばれる長い繊維をくっ付けいるのが特徴である。EspAタンパク質はべん毛フラジェリンと物理化学的性質が以ており、構造的にべん毛繊維に対応するものと考えられる。植物病原菌シュードモナス等も同様の構造をしておりHrpピリと呼ばれている。これら長い繊維を通すことでホスト細胞への密着頻度が高まり感染性が上がると考えられている。 シュードモナスのHrpピリはニードル複合体のニードル部分をすっかり覆うような形で伸長することが示唆されているが、EPECのEspA繊維とニードル複合体との結合部分を観察するとニードルの部分が10-15nm露出していることがわかった。したがって、EspA繊維の伸長にはニードルの中間に重合始点を知らせるような因子があると推測される。
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