研究概要 |
公開されているゲノム情報から、アカパンカビのヒスチジンキナ-ゼ(HK)遺伝子は、出芽酵母では1種類であるのに対し11種類存在する。サザン法により、多くの遺伝子が灰色かび病菌などの植物病原菌にも存在することを確認した。さらに、平成14年7月に公開されたイネいもち病菌のゲノム情報を検索したところ、少なくとも6種類のHK遺伝子が極めて高い相同性を示した。植物病原菌を含めた糸状菌にはHK遺伝子が多数存在し、環境や応答分化に重要な役割を果たしていると考えられた。これらの11種類すべてのHK遺伝子をPCRクローニングし、破壊用ベクターを構築した。そのうち、5種類の遺伝子(os-1,Nc3.79,Nc3.80,Nc3.166,NcSLN)については、破壊株を取得した。今後、残りの6種類の破壊株を作成し、その形質を調べると同時に、HK遺伝子の多重破壊株を作成し、その機能を明らかにする予定である。HK遺伝子の中で最も機能解析が進んでいるos-1遺伝子については、その下流に位置すると考えられるoc-4遺伝子,os-5遺伝子がMAPキナーゼカスケードの構成遺伝子であることを明らかにした。さらに、Candida菌をもちいて、二つのHK遺伝子(COS1とCsSLN1)のそれぞれの破壊株と阻害剤感受性解析から、両HK遺伝子間のシグナル伝達に相互作用がある可能性が示唆された。これらのことから、複数のHK遺伝子の下流には、os-4遺伝子,os-5遺伝子からなるMAPキナーゼカスケードが共通に使用されていると考えられた。os-4遺伝子,os-5遺伝子はアカパンカビのゲノム中で、酵母のHOG経路の構成遺伝子と最も高い相同性を示すことから、今後、糸状菌のHK阻害剤をスクリーニングするための系として、アカパンカビのHK遺伝子を酵母に組み込んだ系の検討をおこなう予定である。
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