ヒスチジンキナーゼは、原核生物の環境応答の中心的な役割を果たしており、多数の遺伝子が存在するが、真核生物である出芽酵母には、SLN1遺伝子の1種類のみである。一方、アカパンカビのゲノムには、フィトクローム様ドメインをもつヒスチジンキナーゼを含め糸状菌特有のヒスチジンキナーゼが11種類存在した。その多くが植物病原菌にも存在することが明らかになった。 アカパンカビのヒスチジンキナーゼの機能解析を行うため、各遺伝子のクローニングとRIP法による遺伝子破壊株の作製を行った。遺伝子破壊株がos-1ヒスチジンキナーゼ以外は、顕著な形質を示さなかったため、遺伝子破壊株の単離は容易でなかったが、11種類のうち、8種類の遺伝子破壊株の単離に成功した。しかし、これらの破壊株は、浸透圧、薬剤、温度、酸化的ストレス感受性および形態形成において、野生株と顕著な差は認められなかった。各遺伝子の機能的重複の可能性が考えられたため、交配による多重破壊株の作製が必要と考えられた。そこで、RIP変異を検出するPCRプライマーをもちいた遺伝子診断系による多重破壊株選抜法を構築した。作製したos-1/NcSLN1の二重変異株は、os-1破壊株よりも高い浸透圧感受性を示し、両ヒスチジンキナーゼ間には相互作用があることが明らかになった。 さらに、os-1ヒスチジンキナーゼの下流にMAPキナーゼカスケードが存在することを明らかにし、その遺伝子が、os-4(MAPKKK)、os-5(MAPKK)であることを明らかにした。また、ヒスチジンキナーゼシグナル伝達経路の薬剤スクリーニング系を構築するために、MAKキナーゼカスケードの下流で制御されている遺伝子の解析を行いNcCTT(カタラーゼ)などの遺伝子発現がジカルボキシイミド剤で誘導されることを見いだした。
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