研究概要 |
1970年にR.Hartshorneは「豊富な接束をもつ非特異既約射影多様体は射影空間に同型である」という予想を提出し,この予想は1979年に森重文氏により,代数幾何学的手法を用いて証明された.一方,1975年に小林昭七氏は「コンパクト複素多様体上の正則ベクトル束が豊富になることと,その双対束が負曲率をもつ擬凸な複素フィンスラー計量を許容することが同値である」ことを証明した.この事実は,計量のカテゴリーをフインスラー計量まで拡げれば,代数幾何学的概念である豊富な正則ベクトル束の微分幾何学的特徴付けが可能であることを意味している. 本研究は,この小林氏の結果を手懸かりに,コンパクト複素多様体に対するハーツホーン予想を,フィンスラー幾何学のカテゴリーで,微分幾何学的手法により証明することを目的としている. 小林氏と落合氏による複素射影空間の特徴付けによれば,このような多様体上に自明でない有利曲線が存在することを示せば,ハーツホーン予想を証明することができる.したがって,本研究の第一の目標は,一般のリーマン面から複素フインスラー多様体への調和写像の理論を構築し,双対接束が負曲率かつ擬凸な複素フィンスラー計量を許容するコンパクト複素多様体に対して,非自明な有理曲線の存在を証明することである. この問題に関して,本年度の研究で得た研究成果は次の通りである. 1.2000年にP.Centoreは,フィンスラー多様体間の写像のエネルギーとそれを基にした調和写像の定義を与えたが,立川との共同研究において,この定義による調和写像は,定義域をリーマン面に制限した場合においても,一般にヘルダー連続性以上の微分可能性が期待できないことが明らかになった. 2.S.Doragomirとの共同研究において,リーマン面からフィンスラー多様体への写像に対するより適切なエネルギーの定義が明らかになった.
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