核酸の塩基配列の相同性に基づいて遺伝子の不活性化がおきる現象は、相同性依存型ジーンサイレンシングと呼ばれ、さまざまな生物においてみられる。植物細胞においては、転写段階のジーンサイレンシング(transcriptional gene silencing ; TGS)および転写後段階のジーンサイレンシング(post-transcriptional gene silencing ; PTGS)が起きることが知られており、これらはウイルスやトランスポゾンといった外来の核酸分子からゲノムを防御する機構として存在すると考えられている。本研究では、ウイルス感染に関連した、植物ゲノムに存在する遺伝子のプロモーター配列におけるメチル化を介したジーンサイレンシングの制御機構を解析し、植物細胞へのウイルスの感染過程ならびにそれに対する植物細胞の防御機構に関する知見を得ることを目的として以下の研究を行った。第一に、ウイルスベクターを用いて二本鎖RNAを介した植物ゲノムDNAに対するメチル化の誘導を行った。CaMV 35Sプロモーターの制御下でGFPを発現するコンストラクトを導入した植物体にこのプロモーターの部分配列を含むウイルスを感染させたところGFPの蛍光の消失が観察された。ウイルス感染植物の次世代を得て、同様な解析を行ったところ、高頻度でGFPの蛍光の抑制が見られた。さらに、サザン解析等によりメチル化の解析を行ったところ、プロモーター配列をもったウイルスの感染後代において特異的なメチル化が検出された。メチル化の過程が、siRNAを介した機構によって行われている可能性を調べるため、ノーザン解析によりsiRNAの生成を解析した。その結果、プロモーター配列に対するsiRNAの存在が確認され、メチル化がsiRNAを介したものであるという考えと矛盾しない結果を得た。
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