弦理論は重力を含む素粒子の統一理論として最も有望な理論であり多くの研究がなされてきた。とりわけ行列模型がその非摂動的定式化として提案され、これにより時空や物質の構造をダイナミカルに解析することが可能となった。当研究課題では、この行列模型の様々な性質、特に時空構造の解明を目的としている。今年度は主に、このような時空上でのカイラル構造をもっフェルミオンについて研究を進めた。 今までの研究から、行列模型においてギンスパーグ・ウィルソン・ディラック演算子を定式化し、そのインデックスを定義する方法を開発した。また、2次元非可換球面上でトフーフト・ポリャコフ・モノポールに相当する非自明な配位を構成し、これらのダイナミクスを解析し安定性を議論した。このような機構を弦理論での余剰次元空間に適用すれば、我々の時空上でカイラル・フェルミオンを生成できる可能性がある。 今年度は、トフーフト・ポリャコフ・モノポール背景場において射影された空間でインデックス定理が成り立つことを証明し、そのために必用な射影演算子の意味づけを行った。また、このモノポール背景場でのディラック演算子のスペクトルを計算し、インデックス定理が成り立っことを確認した。さらに、このインデックス定理を、古典解に限らず一般の配位に拡張して定式化し、配位空間のトポロジカル・セクターへの分類を可能とした。 また、2次元非可換トーラス上での研究も進展させた。古典解についての解析やモンテカルロ・シミュレーションでの解析を行い、インデックスの分布を求めた。行列が有限の大きさのときはインデックス分布に幅があるが、連続極限では分布が局在するという、非可換空間上での場の理論特有の現象を見つけた。 高次元理論への拡張や、弦理論でのカイラル・フェルミオンの実現の具体化など来年度以降も継続して研究していく予定である。
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