遺伝子組換え植物における導入遺伝子の発現の安定性に影響を与える要因を明らかにし、それを完全に制御できるようにすることを目的として、本研究では、植物における導入遺伝子の発現の安定性に関与する最大の課題である、ジーンサイレンシングの分子機構の解明を目指し、以下の解析を行った。カルコーン合成酵素(CHS-A)遺伝子を導入することによって誘導される転写後段階におけるジーンサイレンシング(PTGS)により、この遺伝子が不活性化されて白色の花をつけるペチュニア系統、および、このPTGS系統の維持過程で得られた野生型と同じ表現系である紫色の花をつける復帰系統を本研究に用いた。この復帰系統が生じる過程でエピジェネティックな変異が起きて、CHS-Aトランスジーンの転写が不活性化されたものと推察されたため、第一に、トランスジーンおよび内在性のCHS-A遺伝子の様々な領域に関してメチル化の状態の解析を行った。解析は、メチル化感受性の制限酵素(MaeIIおよびAluI)によるゲノムDNAの切断と、それに続く、制限酵素切断点をはさむ領域の増幅がなされるように設計したプライマーを用いたPCR、ならびにサザン解析によって行った。その結果、CaMV 35Sプロモーター配列の中で、すでにシス配列として同定されているas-1配列を含む複数の制限酵素切断部位においてPTGS系統と復帰系統の間でメチル化の程度に差異があることを明らかにした。また、PTGSによって生じる21-26ntのsiRNA分子は、PTGS系統特異的に検出され、復帰系統におけるトランスジーンのプロモーター配列のメチル化の維持には関与していないことを明らかにした。
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