ミカン科植物の果皮などに多く含まれるポリメトキシフラボン類は抗炎症作用、癌の転移抑制作用、認知症改善作用などの多様な生理活性を有することが知られている。筆者らはポリメトキシフラボン類が主として病態において細胞外マトリックスのリモデリングに関わる酵素であるMMP-9の産生を抑制することに注目し、この酵素が関与する後発白内障、糖尿病網膜症、癌の血管新生、リウマチなどの病態の治療や予防への応用を念頭に、活性の分離や増強を視野に入れた構造活性相関研究を行った。 その過程で、ポリメトキシフラボン類の新規の収束的合成法の開発が急務となったため、最終年度には新規A環シントンの設計・合成と並行して、新規フラボン誘導体の合成と活性の評価やポリメトキシフラボン類によるproMMP-9の産生抑制の分子機構の解明を目指して研究を進めた。従来はA環シントンとしてメチルケトン体から多段階を経てフラボン骨格を構築していたが、A環シントンとしてベンゾオキサジン型の誘導体を用いることによりフェニルアセチレン型のC環シントンと連結後に一挙にB環を閉環する方向で改善を図った。これにより、炭素-炭素結合反応の回数を減らすのみならず、B環構築に要する工程数を削減できるため、誘導体合成が円滑に行えることが期待できる。また、proMMP-9の産生抑制の分子機構についても、ERK及びPI3K-Aktを介した機構であることを示すデータを敷衍し、論文として発表することができた。
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