研究課題
今年度は今回のテーマと並行して、宮野らを中心に解析を行ってきた医療用麻薬のオピオイドシグナリングについての研究が進捗を見せている。医療用麻薬(モルヒネ、フェンタニル、オキシコドン、ヒドロモルフォン)はμORを介して鎮痛作用を発揮する。しかし、各薬剤により鎮痛作用の強さや副作用および鎮痛耐性の発生が異なる。この違いは各薬剤によるμORを介した細胞内シグナル伝達経路の違いに基づく。近年、μORを活性化によりGタンパク質依存的シグナルおよびβアレスチン依存的シグナルを活性化することが知られている。Gタンパク質依存的シグナルは、Gi/oタンパク質を活性化し、アデニル酸シクラーゼを抑制による細胞内cAMP量の低下、ならびにカルシウムチャネルの抑制、カリウムチャネルの活性化などにより鎮痛作用を示す。一方、アレスチン依存的シグナルは、G protein-coupled receptor kinase による受容体のリン酸化、βアレスチンのμORへのリクルートメントによるμORの細胞内陥入などにより、鎮痛耐性に関与する。本研究では、μOR活性化により変化する細胞内外の電気抵抗値ならびに細胞内cAMP量、μORの細胞内陥入を指標に、ヒドロモルフォンによるμORシグナルを医療用麻薬と比較した。方法はHaloTag-μOR安定的発現HEK293細胞を用いた。その結果、医療用麻薬は濃度依存的に電気抵抗値を上昇させ、そのEC50値はフェンタニル<ヒドロモルフォン<モルヒネ<オキシコドンの順であった。また、全ての医療用麻薬は濃度依存的にcAMP量を抑制した。加えて、フェンタニルは急峻かつ顕著なμORORの細胞内陥入を引き起こす一方、ヒドロモルフォン、モルヒネおよびオキシコドンでは緩徐な細胞内陥入が観察された。本研究により、各種医療用麻薬はそれぞれ異なるμORシグナリングを示すことが明らかとなった。
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