研究概要 |
本年度は上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の異常を中心に解析を行うことでデータベースを充実させ、従来明らかにしてきた他の遺伝子異常との関係を考察した。 277例の切除標本からRNAを抽出しcDNAに変換後エクソン18-21の塩基配列を決定した。突然変異は111/277例(40%)に認められた。頻度が高いものはエクソン19の欠失変異(52例、47%)と、エクソン21のコドン858の点突然変異(49例、44%)であった。臨床病理学的因子別には、女性59%、男性26%(P<0.0001)、非喫煙者65%、喫煙者22%(P<0.0001)、腺癌49%、その他2%(P<0.0001)、腺癌のうち高中分化型57%、低分化型30%(P=0.0002)と、それぞれ有意差を認めた。 K-ras遺伝子変異は肺腺癌に特異性の高い遺伝子変化であるが、喫煙者に頻度が高いこと、塩基置換はGto T transversionが多いことから喫煙の影響を強く受けていることが示唆されている。今回のコホートでは腺癌の13%にK-ras変異を認めたが、EGFR変異とK-ras変異は完全に排他的な関係にあった。 一方、p53変異も肺腺癌でも頻度の高い変異であり、41%に認められた。頻度ではEGFR変異とは無関係で独立していた。しかし、G-T transversionやベンツピレン付加体が結合するコドン157,248,273における変異など喫煙関連のp53変異は1例を除いて全てEGFR変異のない腺癌に起こっており、ここでもEGFRと喫煙の排他的関係を強く反映していた。 以上のように、EGFR変異と既知のK-ras、p53遺伝子変異との関連を考察したところ、非喫煙者肺腺癌について示唆に富む知見が得られた。
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