低エネルギー領域のX線を利用した蛋白質結晶の解析手法(低エネルギーSAD法)は、解析の困難な膜蛋白質や高等生物由来の蛋白質にも適用が可能な手法として期待されている。しかしながら、解析に用いる軽原子からの異常散乱シグナルが非常に微弱であることや、低エネルギー領域ではX線の吸収効果が増大しデータ精度を悪化させる要因となることから、回折実験ではシグナルの向上させとノイズを極力減らすよう格段の配慮が必要となる。本研究では、低エネルギーSAD法をより高度化、汎用化させることを目的として、放射光ビームラインを用いて精度の高いデータ収集を行うための実験手法の開発を行ってきた。 平成19年度は、複数の結晶からの回折データの足し合わせ、及び平均化を行うことで、データ精度を向上させ、正確な異常散乱シグナルを測定して解析の成功率を向上させることが出来ないかどうかについて検討を行った。その結果、2〜3個の結晶を平均化するとデータの質は悪化し、解析の成功率が下がるが、ある程度以上の数の結晶を用いることで、データの質が改善し、解析の成功率が上がることが分かった。この結果は回折データの足し合わせの有効性を示すだけでなく、微小な結晶のように放射線損傷の影響で単一の結晶から回折データセットを取得できないような試料に対しても、複数の結晶で精度の高い完全データセットを得ることが可能であることを示唆しており、大変有意義なものである。
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