研究実施計画にしたがい、平成19年に引き続き本年度は以下の研究を実施した。 (A) 磁性ハイブリッド半導体量子ドットの作製 分子線エピタキシーにより、ZnCdMnSe系希薄磁性半導体薄膜・量子井戸を用いたCdSe半導体自己組織化量子ドットの磁性結合型ハイブリッドナノ構造を作製し、光学特性に優れる希薄磁性半導体からCdSe自己組織化量子ドットへのスピン注入ダイナミクスを研究した。特に本年度は、注入時のスピン保存状態を詳細に調べるため、バリアー厚さなどが異なるサンプルを作製した。 また、電子ビームリソグラフィーにより、ZnCdMnSe系希薄磁性半導体量子井戸を用いて、直径20〜30nmのドット構造を作製した。さらにトンネルバリアを介したZnCdMnSe/ZnCdSe系磁性ハイブリッド二重量子井戸を基本とするドット構造を作製した。 (B) 磁性ハイブリッド量子ドットにおける光スピンダイナミクスの分光計測 上述の各種磁性ハイブリッド半導体量子ナノ構造に対して時間分解磁気光学分光を行い、光・電子スピン変換機能性の研究を行った。 まず、希薄磁性半導体とCdSe自己組織化量子ドットの結合構造に対する円偏光を用いた磁場中ピコ秒時間分解発光分光により、量子ドットへのスピン注入ダイナミクスの実時間計測を行い、得られた発光の減衰特性と円偏光特性の時間変化をもとに、注入後のドット内スピン緩和時定数を取り込んだレート方程式解析を行った。さらに、注入時のスピン損失を定量化するため、円偏光を用いた磁場中励起発光分光を行った。これらの結果、スピン注入時にスピン損失が生じていること、スピン注入において時定数が数十psの超高速の注入過程と、数百ps以上の比較的遅い注入過程が存在することを明らかにした。さらに、注入時のスピンの保存状態や注入時間のトンネルバリア依存性を明らかにした。
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