研究概要 |
脳機能の自己モニタリングを可能にするために、健常者を対象として頭部用の多チャンネル近赤外線スペクトロスコピィ(NIRS)装置を用いて大脳皮質の賦活反応性を検討し、さまざまな精神状態との関連を検討した。(1)頭皮上のNIRS測定チャンネル位置と標準脳における脳回との対応を確立し、fMRIやPETにおいてアーチファクトのために測定の信頼性が低いとされる前頭極部frontal pole(Brodmann 10野)についてNIRSの測定が可能であるという利点を明らかにした。(2)時間分解能が高いというNIRSの特徴を生かし、運動課題における大脳皮質の賦活反応性について、運動野については「課題区間における持続的な賦活」、体性感覚野については「課題開始時の-過性の賦活」、前頭葉については「課題区間における累積漸増的な賦活」、という時間経過の特徴があることを明ならかにした(Neurosci Res 58:297,2007)。(3)言語流暢性課題において、自覚的な軽度の眠気が前頭葉背外側面の内側部における賦活反応性と負の相関をすることを示し、高次脳機能の軽度の変化がNIRSデータに反映されることを明らかにした(Neurosci Res 60:319,2008)。(4)同じ言語流暢性課題において、自覚的な疲労感は前頭葉腹外側面の賦活反応性と負の相関を、検査前夜の睡眠時間が前頭葉背外側面の賦活反応性と負の相関を示し、眠気と疲労感の自覚はそれぞれ前頭葉背外側と腹外側によって担われることを明らかにした(Brain Res1252:152,2009)。(5)以上の結果から、「自然な状態における検査が可能」という特徴をもつNIRSは、健常者の精神状態の自覚の脳基盤を明らかにするうえで有用であり、脳機能の自己モニタリング装置として適切であることが示唆された。
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